夜の雨 2


 目次



 三か月ぶりの希和の体は固かった。
 五月に婚姻届を出し、その日にこの家に来た夜がふたりで過ごす初めての夜だったが、一夜を過ごすと俺は仕事のあるニューヨークへ戻ってしまっていた。あの夜、ほとんどなにもない部屋に希和が持ってきた布団を敷き、希和を抱いた。慣れない様子をありありとさせながら隣りに座った希和は俺が手を伸ばすと身を寄せてきたが、体は固くキスにもろくに応えられなかった。
 二十九歳の希和に今までにつきあった男がいたのかどうか、そんなことは聞くつもりもなかったが、口数が少なく見た目も地味な希和は俺が初めての男ではないか、そんな気がしていた。しかし希和が男を受け入れるのが初めてであっても、抱くのを先延ばしにすることなど考えられなかった。肌に触れても愛撫をしても、そして体を交わらせても、最後まで希和の緊張は解けずに残っていたようだったが、希和が感じた初めての痛みも仕方のないことだったと思うしかない。

 今も触れた希和の体はあの時と同じくらいにぎごちなく、触る手に感じる肌の温度がそれを感じさせた。胸へと手を滑らせるとわずかに希和の体が引かれたが、手で胸を隠そうとするのを押し戻しながら先端を口に含んだ。
 希和は、背は低くなかったが細い体をしている。腕も細い。希和の体を押さえつけているわけではないのに、かぶさって肌を触れているだけで希和は動くことができないでいる。
 ほとんど真っ暗な部屋の中に時折、光が射し込む。窓ガラスの向こうで光がだんだんと強くなってきていた。
 希和の腕を広げさせながら愛撫をしても希和の体はなかなか緩まない。うすいふくらみの先端を吸うたびに希和が身をよじろうとするが、手と唇で愛撫を続けた。希和の乳首は固く締まり、舌に引っかかるほどなのに体が固い。胸から首へと唇を這わせるとまた窓が光った。急に響いた大きな音に希和がびくっとして、息を飲んだようだった。
「雷が怖いのか」
 顔を上げてそう聞くと希和は首を振ったが、とても本当のことを言っているようには思えなかった。その時、ひときわ強い光が窓のシルエットを浮き上がらせ、一瞬の後に引き裂くような音がとどろくと同時に希和が手で耳をふさいだ。
 家が揺れるかと思うような大きな音が続くなかで希和の上げられた腕が何度も光に照らされ、抱かれる緊張とは違う強張りでぎゅっと目を閉じ、体を固くして耳をふさいでいた。
 縮こまるように横向きになっている希和の体へかぶさり、耳をふさいでいる手に顔を近づけた。指の隙間から息を吹きかけ、そして指へ唇をつけると希和が驚いたように手を離し、目を開けて見上げていた。また顔を近づけて、くすぐるように耳朶に唇をつけ舌を這わせると希和の肩がふるっとすくめられた。その細い肩が離れないように抱き、希和の胸を自分の肌へつけながら窓の外が光るたびに希和の耳を唇でなぶった。

 激しく降り続く雨の音が雷鳴をかき消すほどに強くなっていた。屋根を打つ雨の音が家じゅうに響いて雨音に覆われているようだった。雨音しか聞こえず、雨音に耳をふさがれたようになりながら希和の体をなでていく。胸からみぞおちへと滑らせた手を太もものあいだへ入れて開かせ、希和の入口を探ると指が潤みに触れた。潤みの中へ指を沈めると抵抗なく奥へ飲み込まれた。
 指を動かすたびに希和の足がだんだんと開いてくる。とろりとした潤みが溢れ出し、指が小さな突起を捉えると希和の体が揺れ始めた。早まる鼓動を反映するかのように希和の息が細かく繰り返され、胸が上下する。指の腹で小さな突起をこすり続けると急に希和の体が反って動かなくなった。狭まった足のあいだで入れた指がきつく締め上げられ、希和の内側がひくついていた。
 しばらくそのままで、やがて希和の内部が少し緩んでくると指を抜き、投げ出されている足に手をかけると膝は力なく曲げられた。希和の腿を開いて自分自身を当てがって押すと、きついながらも入っていった。闇の中で希和が俺を見上げながら息を詰めていたのがわかった。

 体の触れ合う感覚だけが伝わってくる。雨の音に囲まれて自分の呼吸の音も聞こえているようで聞こえてはおらず、体のあいだから漏れている水音も、すべて雨音に消された。
 動くたびに希和からの快感に上り詰めていく。希和がもう一度達することができるのならそのほうがよかったが、もうこちらにも余裕がない。固く、柔らかい希和の中で張り詰めたものがさらなる快感を求めていた。動けないでいる希和の中で動きを繰り返し、そして快感を開放した。




 いつのまにか激しい雨が通り過ぎていた。
 外の雨の音が弱まり、室内のエアコンから冷気が出る音がまた聞こえていた。静かになってきた雨音を聞きながら快感の後の脱力に身を任せて横たわっていたが、となりで背を向けるように横を向いたままだった希和のうなじに指で触れるとそこはまだ汗ばんで湿っていた。顔を近付けてそこに唇をつけるとぴくりと希和の体が動いた。体の下へ腕を入れると希和の体は簡単に引き寄せることができた。
「待たせたね」
 そう言うと腕の中で希和がうつむいた。暗闇の中で希和の体を抱き直すと、希和の体が素直に添っていた。もう一度希和の首筋に唇をつけると、眠るために目を閉じた。


   目次     前頁 / 次頁

Copyright(c) 2013 Minari Shizuhara all rights reserved.