花のように笑え 第1章 12

花のように笑え 第1章

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12


 着ていたものを取り去るたびに露わになっていく瀬奈の肌に触れてはまた唇へと戻ってくる口づけ。すべての服を脱がされて胸を隠している腕がやさしくどけられてしまう。ほんのりと赤く染まった乳房。その先端が恥ずかしくて震えている。 寝室はすでに夕方の暗さで聡は明かりをつけようとはしなかったがそれでも瀬奈の恥ずかしさは変わらない。初めて聡に体を見られているのだから。
 自分を見る聡の視線が恥ずかしくて、聡の素肌が自分の肌と接しているのが恥ずかしくて目をそらしてしまう。そんな瀬奈の顔を向かせるように聡がまたキスをする。
「きれいだ、瀬奈。とても」
 そして彼の唇が瀬奈の乳首をとらえてそこに口づけされると瀬奈の体はもっと震えた。その愛撫を続けられるとじんと体の芯が熱くなるのが感じられたが、でも初めての刺激にもがいて体を引いてしまう。とまどいと恥ずかしさが抑えきれない。
「あ……」
 瀬奈の乳房をなでる聡の男らしい手の指。
「震えているね 。大丈夫、力を抜いて……そう、とてもきれいだ」
 聡が瀬奈の胸へ口づけしてまた唇にキス。何度も何度もゆっくりと繰り返される。
「君が待っていてくれてよかった……」
 本当に? 聡さんから逃げ出そうとしたのはわたしなのに……。
「瀬奈、俺を見て」
 そう言われて瀬奈は目を開いて自分の上から見降ろしている聡の顔を見た。
「愛している」
 瀬奈の瞳に落とされたその言葉。
 わたし、わたしも……。

 愛撫が繰り返されていく。
 唇に、肩に、腕に、柔らかな瀬奈の乳房に、聡のその唇で、舌で、指で。
 瀬奈に戸惑いの気配があれば口づけが戻ってきて愛撫とともに繰り返される。瀬奈が何も考えられなくなるまでゆっくりと。
 唇をキスで覆われながら聡の手が瀬奈の足の間へ入り瀬奈の秘めた花唇が最初はそっとなでられる。さわさわとやさしくなでる聡の手のひら。くすぐったいようなその感覚に瀬奈は足を閉じたくなるのをがまんしていた。 くすぐったいだけではない、うずくような、ひとりでに体が動いてしまうような……。
「…………」
 瀬奈にもわかっていた。こうしてもっと潤っていくものだと。聡がそれを待っているのだと。それは瀬奈のために。瀬奈の心と体のために。そして聡のために。
 さらに足を開かれ潤いを確かめるように触れられたかと思うとそこから指がすっと上へと動いて花唇が割られる。
「……や……」
 一瞬、瀬奈の体がびくついた。が、それも聡の腕の中でのこと。
「大丈夫」
 濡れているそこを指で何度も前後されて聡の指がだんだんと瀬奈の知らなかった感覚を与えていく。しっとりと濡れた瀬奈の花唇と聡の指。瀬奈の潤いをまとわせた聡の指に花唇の固い芯を探りだされて、それをこするように柔らかく揉まれると もどかしいような快感が湧き上がってくる。逃げ出したいほどの快感。
 でも……わたしはもう逃げたくはない。
 つ、と聡の指が奥へと差し込まれる。まだ誰も触れたことのない瀬奈の内部。潤いをていねいに広げられて何の痛みもなく熱い内部へ聡の指が入っていく。
「あっ……」
 思わずこぼれる瀬奈の声に聡が耳元へつぶやく。
「花のような香りがする。瀬奈の匂いだ」
「い……や、そんな……」
 聡の指にまた花芯をこすられて体がふるふると小刻みに震えて聡へしがみつく。
 聡が入ってくるその痛みにも逃げなかった。痛みとともに聡を感じている。彼の体を感じている。しかし聡がそれ以上動かないのに気がついて痛みに耐えていた目をやっと開ける。
「あ……きら……さん」
 体を起こしたままじっと瀬奈を見ている聡の目。瀬奈をいたわるような目で見降ろしてくれている。やさしいような、でも切ないような聡の翳った黒い瞳。
「瀬奈……」
 名前を呼ばれただけだった。その声に聡の顔を引き寄せるように伸ばした瀬奈の腕。
 瀬奈の手に迎えられるように顔を近づけながら沈み込む聡とより深く結びつく。瀬奈はまだ慣れないその感覚と痛みに声が出そうになったがまた唇がキスで塞がれた。からむような聡のキスが瀬奈の声を吸い取っていく。その痛みを忘れさせるように。


 力の抜けてしまったような体を抱きしめられていた。
「ずっとずっとこうしたいと、瀬奈を抱きしめたいと思っていた」
「……聡さん」
「ここにいるんだ、瀬奈。他のどこでもない、ここにいるんだ」
 そう言う聡の唇が瀬奈のこめかみへあてられている。広い肩の聡の腕に抱かれてすっぽりと包まれるようにされて。
「ここに……?」
 それは場所のことではない、聡の傍らという意味。
「そうだよ。俺と瀬奈はひとつになれたんだから」
 ひとつになれた。
 体の痛みも忘れるほど瀬奈には一番うれしい言葉だった。わたしは、わたしたちは本当の夫婦になれたのだろうか……。
 笑いかけてくれる聡の顔を見つめながら瀬奈はぼうっと上気したような感覚で思った。
 聡さんが笑ってくれている。もっともっと早く聡さんの笑顔が見たかった。あなたのその笑顔が見たかった、と。


「……瀬奈」
 名を呼ばれて目を開ける。
 朝まで目覚めることもなく深く眠りこんでしまったベッドの脇にはすっかりスーツを着込んだ聡が瀬奈の顔を覗き込むように立っている。
「いいんだ、そのまま」
 あわてて起きようとする瀬奈を聡がやさしく押し留めた。
「もう行かなきゃならない。君のそばから離れるのが難しいとわかっていたんだが。でも必ず今夜は帰ってくる。待っていてくれるかい?」
 もちろん、あなただけを待っている……。
 聡が瀬奈の柔らかく広がる髪をなでるとかがみ込んでキス。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい。待っている……」
 瀬奈の言葉に聡がちょっと笑う。なごり惜しそうなそんな笑顔。しかし聡は出て行ってしまった。ふたたび枕へ顔をつけ目を閉じながら瀬奈は新しく生まれ変わったような自分を感じていた。寝坊をしてしまうのも今朝だけだ。
 これからは……。
 今だけは……。



 偽の投資話についてはAMコンサルティングも被害者なのだという認識で警視庁に被害届を提出した。外資系証券会社も同様に被害届を出していた。
 今後の展開については警察の捜査の結果を待つしかなかったが聡には社長としてやるべきことがいくつもあった。なによりAMコンサルティングの信用回復も重要だった。
「時間をかけるしかしかないだろうな」
 三田はそんなふうに言っていた。しかしどんなに仕事が山積していると思っても、もう聡は会社やホテルに泊まりこむようなこともなくどんなに遅くなっても必ず家へ帰ってきた。 瀬奈はいつも眠らずに食べやすいものを夜食に用意したりして聡の帰りを待っていた。

「……あの、おいしい?」
 黙って夜食の焼うどんを食べる聡に瀬奈は我慢しきれずに聞いてしまった。
「うん? おいしいよ。でもいままで小林さんは焼うどんなんて出してくれなかったなあ」
「それ……わたしが作ったの」
「え!」
 聡が心底驚いた顔をしたので瀬奈はわざとふくれてみせた。
「わたしだってお料理くらいできます。聡さんにはわたしの作った物なんてお口に合わないかもしれないけれど」
「あ、いや、その、そんなことはない。とってもおいしいよ。その……すごく」
 あわてて言う聡に瀬奈はおかしそうに笑ってしまった。そんなに一生懸命言わなくてもいいのに。
「何だ瀬奈、そんなにおかしい?」
 聡が腕を瀬奈の体へ回しながら言う。聡の頬へ自分からキスをするとすかさず聡が唇にキスしてくる。
「ありがとう、瀬奈。こうして奥さんの作ってくれたものを食べるのが俺の夢だったんだ」
 聡に家族のいないことを瀬奈は思い出して胸が締め付けられる。瀬奈の顔に現れたそんな思いに聡はまたひとつ心の枷(かせ)が外れる思いがする。家族がないのは瀬奈も同じなのに瀬奈は自分のことはひと言も言わず俺の事を思っていてくれる。俺のために。 愛しさがこみあげて瀬奈を抱きしめる。幸せにしてあげたいと思っていたのに今はまるで逆だ。瀬奈が俺をこんなにも幸せにしてくれている。


2008.05.13

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