副社長とわたし 22

副社長とわたし

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22


 週が変わって今週は常盤さんは会社にいると言っていたけれど、島本さんは来るだろうか。
 わたしは気になっていたが、時々、副社長室へ出入りする人たちを見ながら、やはりそう簡単には来られないのかもしれないと思った。火曜日の午後に郵便物を発送するついでにわたしは総務へ寄ってみた。カウンターのところを歩いて通り過ぎただけだけれど、総務は少し机などの配置が変わっていた。
 が、島本さんはいつもの席にいた。わたしに気がついたみたいだけれど、なにも反応はなかった。いつも通りに仕事をしているようだったけど、声をかけることもできなかった。

 今週は金田所長も三上さんも営業所にいる。ふたりが溜まっていた営業所での仕事を片付けて週末には忘年会をやろうという話になっていた。
 向かいの副社長室には常盤副社長いたけれど所長や三上さんがいるからわたしもちらっとでも見ているわけにはいかない。
 その後に副社長室へ入っていく総務部長と総務課長が見えて、ブラインドが閉じられてしまった。このあいだから何度かこういうことがある。

 島本さんが出したと言っていた配置転換の希望。
 それを副社長に尋ねようとしていた島本さん。

 何度も副社長室へ来ている総務部長や総務課長。彼らと話している副社長。

 島本さんはやはり総務課長には聞けなかったのだろうか。島本さんの配置転換の希望はかなえられるのだろうか……。





「瑞穂ちゃん、三上君、いつもご苦労様。乾杯」
「かんぱーい」
 チンとグラスをぶつけ合う。その週の金曜日にわたしたち営業所の三人だけの忘年会が行われた。
「東京へ来てどう? 瑞穂ちゃんはもう慣れた?」
「うーん、通勤の電車は嫌ですね。ラッシュはほんとに嫌です」
「あれはねえ。東京へ来るまでは瑞穂ちゃんは家から車通勤だったからね。地方は楽でいいよね」
 体の大きい三上さんは学生時代に柔道をやっていたというだけあって飲みっぷりも豪快だ。
「それよりさ、三光製薬にはだれかめぼしい男はいないの? 来週はクリスマスだよ、瑞穂ちゃん」
「えー」
「こら、三上君、みーちゃんにそんなことを言っちゃいかんな。みーちゃん、そう簡単に東京の男に引っかかっちゃいけないよ。まあ、瑞穂ちゃんなら大丈夫だろうけど。なあ、三上君」
「そりゃ、そうっすね」
「もう、所長も三上さんも」
 もう引っかかっちゃいました、副社長に。そう言ったら金田さんや三上さんはなんて言うだろう。

 金田さんや三上さんと別れてわたしは電車で帰ろうと思って駅へ向かっていたら、常盤さんからメールが入った。帰る時は送るから終わったら電話をしてと言われていたけれど、常盤さんはもうマンションへ帰っているはず。そう思って電話をした。
「送ってもらうのは悪いですから、電車で帰ります」
『じゃあ、送る代わりに迎えに行くよ。駅にいて』
「え、でも」

 断れなかった。
 甘えている。わたしって。
 孝一郎さんに会えるだけでうれしくて。迎えに来てくれることがうれしくて。

「瑞穂」
 車で迎えに来てくれた孝一郎さんは黒っぽいセーター姿だった。
「顔が赤い」
 わたしを見てくすっと孝一郎さんが笑う。
「そんなに飲んでませんけど」
 マンションに着いて、玄関のドアが閉じられるとするりと後ろから腕が回されて頬へ唇をつけられた。
 肩にかけていたショルダーバッグが腕をずり落ちていく。孝一郎さんはジャケットを着たままのわたしの首筋に唇をつけながら胸元をのぞきこんでいる。
「ここも赤い」
 言われて気がついた。
 お酒を飲むとすぐに顔に出るわたしは胸も赤くなる。開かれてしまった胸元から見えそうになっている胸の先もいつもよりずっと赤みを帯びているはず。孝一郎さんの指がブラの中へと入ってきて足から力が抜けていく。

「瑞穂が飲むとこんなになるなんて知らなかったな」
 だって孝一郎さんと飲んだことない。
「とてもやわらかい」
 ふくらんで柔らかい胸の先を楽しんでいるかのような孝一郎さんの声。わたしはベッドの上へ乗せられて、子どものように服を脱がされてしまった。着ていたものから解放された胸へ落とされる孝一郎さんの唇が心地良い。唇が頬や唇へ戻ってくる。
「ん、ん……」
 あたたかくて……気持ちがいい。
 こんなに幸せでいいのだろうか。こんなに好きな人とこうしていられるなんて。
 
 お酒でどこかしびれたようなわたしの頭は続けられるキスでぼんやりとしていく。会社のことも、仕事のこともどこか遠くのことのように忘れていく。

 気持ち良すぎるよ、孝一郎さんのキスってば。……ん……。

「瑞穂?」

 くったりとしたわたしがすーすーと寝息をたてて眠ってしまった、と笑いながら話す孝一郎さんから聞かされたのは翌朝のこと……。


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