副社長とわたし 2
副社長とわたし
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「備品室のほうが俺たちの部屋より大きいなあ」
「そうですね」
備品室の担当の管理課の人が来て鍵をあけてくれたのだが、中へ入って見てみるとオフィス用の机がふたつしか見当たらない。
「これだけですか?」
金田さんが尋ねたが、管理課の人は「そうです」と答えただけだ。
「机、三台必要なんだが。ほかのところに置いてあるということは?」
「いいえ。ほかにはありません。今はこれだけです」
「でも私たちは机が三台必要で、それは連絡してあったんだが」
「でも中古のものはこれだけです。あとは総務のほうに言ってもらわないと」
管理課の人の言葉に金田さんと三上さんとわたし、思わず顔を見合わせた。
「それに椅子がないですよ」
「しかたがない。とりあえずこれを運ぼう。出庫伝票のようなものは必要かね?」
「いいえ」
管理課の人は金田さんの念押しに平然と答えていた。
ふたつの机を運び込んだが、これではどうしようもない。
金田さんがもう一度総務に戻って確認をすると「足りないものは発注してください」と言われたという。
「それから電話の設置のほうはどうなっているんですか」
「それは昼に業者が来ますので」
総務から戻った金田さんはかなり頭にきていたようだった。温厚な金田さんだが、金田さんでなくてもむかつくところだろう。
「みーちゃん、机のほうは発注できるように用意してもらえる? 今から本社の許可をもらうから」
金田さんが携帯電話を取り出す。備品の発注はわたしの仕事だけど、でも東京へ来た当日で発注をするにしてもオフィス用品を扱っている業者をわたしは知らない。このオフィスへ納入している業者を紹介してもらうか、そうなるとここの総務か管理課を通しての発注になるのかもしれない。
総務課へ行って声をかけ、広くて静かな社員の大勢いるところへ入っていくだけでも勇気がいるものだが、ここは気にしないことにする。課長という人に事のあらましを説明し、発注の手続きを教えてもらう。やはり一括でこのオフィスへ納入している業者へ発注してもらいたいということで途中から女性社員に変わり、
この人が備品の発注の担当者らしかったので、書類の置いてある所などを教えてもらった。わたしと同じくらいの年齢の女性社員だったけれど、おとなしい感じでこちらから聞けば答えてくれるのだが、なんだか余分なことは言わないという雰囲気だった。
オフィス用品のカタログを借りて部屋へ戻り、大きさを確認して机をどれにするか決めなければならない。金田さんはまだうちの会社の本社と電話中で、三上さんは取引先から電話が入ったらしく携帯電話で話していた。でも、椅子がない。
もう一度総務へ戻り、机と椅子を借りられないかと聞いてみた。会社にはたいてい予備や会議用の折りたたみテーブルやパイプ椅子があるものだ。当座の間だけでもそれを借りたいと 思って。
「会議室にありますから、どうぞ」
「ありがとうございます。あの、すみません、会議室っていうのはどこでしょうか」
わたしが尋ねると課長席に座っていた中年がちょっと不機嫌そうに言った。
「島田君、会議室教えてやって」
すみません、お手数かけます。と課長と島田という人に言ったが、課長は無反応だった。 これって?
島田という人は新人ぽい、若い男の人だった。
「会議室は八階です」
それだけ。
別に案内してほしいわけじゃありませんけどね。なんか素っ気ないというか。
エレベーターに机が乗せられるだろうか。
八階へ向かいながらわたしはエレベーターの中を見た。机の大きさにもよるな。とりあえず机の大きさを見て、このエレベーターが無理ならこういうビルにはきっと荷物用の大きなエレベー ターがあるかもしれない。先に椅子を運んで、机を運ぶのは金田さん達に手伝ってもらおう。
エレベーターの中はわたしひとりで、八階に着くと廊下はしんと静まり誰もいなかった。廊下に面した部屋のドアは皆閉じられていて、でもドアや廊下の壁がなんとなく下のオフィスとは雰囲気が違う。このビルの床はつるつるの床ではなく、すべてオフィス用のカーペットタイプの床だったが、八階の床はさらに歩き心地が良かった。
そのカーペットにわたしの足音さえ吸いこまれていくようだ。防音効果もすばらしく、ここにはもしかしたら来客用の応接室などもあるのかもしれない、と思った。
表示を見て、「第一会議室」を見つけた。
「失礼します」
ノックをして、一応声をかけた。
ドアを開けた会議室の中は暗く、正面に何かの映像が映し出されていた。どこかの会社の建物のような写真だった。プロジェクターというのだろうか。この会議室を使っているとは思わなかった。さっきの総務の人はそんなことは言ってなかった。
「失礼しました……」
あわててドアを閉めようとしたところでぱっと部屋の灯りがつけられた。
「待ちなさい」
中には男性がひとり大きな会議テーブルの端に座っていた。椅子へ座ったままくるりとこちらへ向いた。
「誰だね?」
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