誕生日 6


誕生日

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 お見合いを断られて、3日後。
 せっちゃんが新婚旅行へ行っている間はわたしがせっちゃんの仕事をやっていたんだけど、せっちゃんの休みが明けてもなんだか仕事が詰まっていた。しばらくしてやっといつものペースに戻って今日は残業なし。 会社帰りに本屋へ寄ってからきんつばを買ってきた。これは父も好物なのだ。き・ん・つ・ばー。あれ?
 玄関には黒い革靴が揃えられていた。お客らしい。
「真希」
 奥の和室から父の声がかかる。
 誰か来ているのかな。挨拶しろって言うんだろうか。まー、めんどくさい。

 けれども和室の障子をあけて中にいたのはスーツを着て座っているカーチュだった。座卓をはさんで父と向かい合って座っているカーチュがゆっくりと振り向いた。
「カーチュ。なに……?」
 父とカーチュ、ふたりともわたしを見ている。
「真希、今、神田君から話を聞いていたところだ。なんでおまえはこういう大事なことを言わない?」
 大事なことって?
「神田君はおまえとの結婚を真剣に考えているそうだ。そういうことをなぜこの前の話のときに言わないんだ。まったくおまえときたら」

 はああああああっ???
 なに、なにそれ! 結婚? ……って、誰が? 誰がぁぁぁぁ?

 カーチュがわたしの顔を見ながら口の端がにやっとしたようだった。今、にやっとしたよね! したよね!
「カーチュ、どういうこと……!」
「真希が見合いしたって聞いて。なんでおまえ、俺に言わないんだ」
 えーっっっ、なんであんたに言うのよ!
「だからお父さんに会いに来たんだ。おまえは何にも言わないから」
 なにかが違うと口をパクパクするのだが言葉が出てこない。
「真希。お父さんも神田君の話を聞いたばかりだが、おまえがいいならお父さんはかまわないぞ。そういうことなら……」
 い、いや、お父さんがかまわなくても、わたしはかまうんです。だって……。

「すみません、突然おじゃまして。そういうことですのでまた日を改めてご挨拶にうかがいます」
 カーチュはそう言うとおもむろに立ち上がった。
「お父さん、ちょっと真希さんを借りていいですか?」
 お父さん? あんた、いつから……それに、それに……。
 カーチュは仁王立ちになっているわたしを引っ張るとさっさと玄関から出ていく。

 ちょっとーっ!!!!!!


「カーチュってば、どうかしちゃったの?」
 カーチュはポケットへ手を突っ込んで歩いている。あとから歩きながらわたしは怒りを抑えられない。もはや驚きを通り越して怒っている。
「いったいなんなの? わたしと結婚するってどういうこと? なんでそんなこと言い出すの?」
「だっておまえ、見合いしたんだろ」
「なんで知ってんの。誰に聞いたの」
「おまえんとこの副社長。きのう会ったときに」
 かあーっ、せっちゃん → 倉橋か。
「だからって、だからってなんでカーチュが。あんた結婚なんてできるの?」
「なんだ、それどういう意味だ?」
 カーチュが立ち止った。
「だってカーチュ結婚してないの? していなくても彼女とかいるでしょう? 33なんだから!」
「おまえと同い年だからな。残念ながら」
 カーチュは笑った。
「まだひとりだし、彼女なんていないよ」
「……ひとりでも、彼女いなくても、わたしカーチュとつきあった覚えなんてないわよ! なんで、それなのに」
「これからつきあえばいいじゃん。見合いだって同じようなもんだろ」
「そんな、いきなり結婚だなんて……!」
「おまえに任せておくとちっとも話しが進まない。てっとり早く話、通したわけ」
 
 だからあ、どうしてそうなるの!
 任せた覚えも任された覚えもないわよっ!
 段取りすっ飛ばして、それより何よりわたしの気持は……

「そんな冗談みたいな!」
 そこまで叫んでカーチュがわたしをじっと見ているのに気がついた。
「冗談じゃなくて」
 …………
「俺はおまえが好きなんだけど」
 …………
「そ、そんなこと聞いてない」
「今、言ってるだろ。それよりここまで来たついでに俺の親に会っていくか?」
 気がつくとカーチュの家の前だった。
「冗談でしょ! 帰ります」
 くるっと背を向けて歩き出す。
「真希」
 な、なによ。
「送るよ」

 ……がっくりと疲れたわたしはカーチュの車で送ってもらった。これ以上何を話してもどうにもならない気がしたから黙ってカーチュの車に乗ってわたしの家までほんの2、3分で着いてしまう。
「……どうも」
「あー、そうだ」
 思いついたようにカーチュが言う。まだなにかあるの?
「あした電話するから」
「…………わたしに?」
「ほかのやつに電話して意味あんのか」
 …………
 もう理解不能です、わたし……。


 中学生だったカーチュ。中学を卒業してから一度も会ったことはなかった。高校の時にバイクですっ転んで怪我したとか、そんな噂を耳にしただけ。ずっと忘れていたのに。

 好きなんだけど。

 初めて言われた。
 彼氏いない歴33年のわたしにこの言葉は犯罪ものだよ。どうしろっていうのよー!


2009.03.07

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