花のように笑え 第2章 16
花のように笑え 第2章
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16
「あれ? こんな時間に誰だ?」
アパートの部屋のドアをノックする音に気がついて外を覗いたところで大輔はあっけにとられた。
「瀬奈……!」
「わたしの旅行バッグまだある?」
「なっ……どこへ行ってたんだ! 心配したんだぞ。親父やお袋だって……おい、瀬奈!」
瀬奈は答えずそのまま大輔の部屋へあがりこんで見回した。部屋の隅にある瀬奈の旅行 バッグを見つけるとものも言わずに持ち上げる。
「瀬奈!」
「大輔さん、お金持ってる?」
「金? 何だよ瀬奈、どうするんだよ。それより瀬奈!」
「ちょうだい、お金。札幌へ帰るから」
「え? 札幌へ? だけどおまえ今までいったいどこにいたんだよ!」
「ごめんなさい、心配かけて。お金貸してくれる?」
大輔が目を白黒させているが瀬奈はかまわず続けた。
「ごめんなさい、返せないけれど」
「おまえ……本当に札幌へ帰るんだな?」
瀬奈のなんだか見知らぬ他人のような表情に大輔の差し出した手が止まった。
「瀬奈……」
瀬奈は何も言わず金を受け取るとベッドの上へ放り投げてあった大輔のジャケットを手にした。
「上着がないの。これもらっていい?」
……これ、本当に瀬奈か?
以前の瀬奈なら金を貸して欲しいとか、上着が欲しいとかそんなことは決して言わなかった。言うにしてももっと別な言い方をしたはずだ。
大輔は瀬奈の顔をあきれたように見たが瀬奈は何も考えていないような顔つきだった。
いなくなって3か月もたって急に現れて金を貸せとか、服をくれとかいったいどうなっちまったんだよ! 俺が、親父やお袋がどんなに心配したかわかってんのか!
しかし瀬奈は大輔の上着を着るともうドアへ向かっていた。
「瀬奈!……」
ドアを開けている瀬奈。
出ていく瀬奈の瞳がちらっと見えた。暗い夜の色に溶けたような色だけが。
そして静かにドアが閉じられて瀬奈の姿が見えなくなった。
第2章終了
2008.08.17
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