クリスマスケーキ・イブ

クリスマスケーキ・イブ

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 クリスマスケーキは赤と白。
 赤いイチゴに白いクリーム。

 そんな定番のケーキを夕方から店の前に出したテーブルで売る。けれどもこの寒いのにミニスカートの赤いサンタ服を着て、と言われてもうひとりのバイトの子は「え〜っっ!!!」と声を上げた。
「それ、寒いですよ。嫌だあ」

 結局、ミニスカートのサンタ服を着たのはわたしだけ。
「寒くないの?」
「わたし、冷え症じゃないから。寒いのは結構平気」
 でも寒いのを感じないわけじゃない。ブーツをはいていても膝から上がもう冷たい。でもわたしはそのままでバイトを続けていた。

「ここのケーキ売切れたらバイト終わりかなぁ」
 表に出てまだ1時間もたたないうちにもうひとりのバイトの子から聞かれた。
「でもケーキ、思い切りたくさんあるよ」
 店の中にもたくさんのケーキがある。丸いケーキや小さなカットケーキ。それから山のようなフライドチキンやローストチキン。オードブルの詰め合わせ。ピザ。お寿司。その他にもいろいろ。デリカテッセンというよりはお惣菜専門店のこのお店はイブの今日、すみからすみまでクリスマスバージョンだ。
「ケーキ、いかがですかあ」
 お店から出てくるお客さんも町行く人たちもどこか楽しそう。あれこれと買い物をして家路を急ぐ。あるいはカップルが連れ立って歩きながら笑っている。
「あー、早く終わらないかなあ」
 どうやら彼女はこのあとデートらしい。

 わたしにはなんの約束もない。イブなのに。
 つきあっている彼とは3日前にケンカしてそれ以来メールも来やしない。クリスマスには一緒にホテルへ泊まりたいね、って言っただけなのに。
「今から予約取れるわけないだろ。それに俺、月末と年末が迫っていて忙しいんだ。会社の連中だって毎年クリスマスどころじゃないし。26日? 仕事だよ。休めるわけないだろう。おまえはいいよな。大学生だから」

 最後のひと言で切れた。
このごろ忙しくてあんまり会えなくて。でもクリスマスくらいと思って。それに25日は金曜日だからどこかに泊って次の日はゆっくり休めるし……なんて思っていたのに。
 外国にはクリスマス休暇があるのに日本にはどうしてないのかなあ。みんなこんなにクリスマスを楽しんでいるのに。

 バイト終了まであと1時間。もう9時を過ぎて人通りも少なくなってきた。
「バイトさん、ご苦労様。もう少しだからがんばってね」
 店の人から声がかかる。
 せめてなにか彼にプレゼントでも、って思って入れたバイトなのに。
 足も寒いけれど心も寒い。

「クリスマスケーキ、いかがですかー。イチゴと生クリームのショートでーす」
「あれ?」
 もうひとりのバイトの子が声を出した。
 ケーキを売っているところから少し離れたところに立つ男。コートの襟元から見えるネクタイ。 会社帰りの姿のまま立っているのは……。

「あの人、知っている人?」
「う、うん……」

 彼はそのまま立っていた。ときどき、わたしのほうを気にしながら。

「……もう」
 あんなところで待っているなんて。まだバイト終わらないのに。

 ケーキはまだいくつも残っているけれど、家路を急ぐ人たちは通り過ぎていくだけ。
「早く売れないかなあ」
 もうひとりのバイトの子がまた言った。

最後に残ったクリスマスケーキ。
誰かを待っているかのような白い箱。

「それ、下さい」
 待っていたのは……。

「この前はごめん。バイト、何時に終わるんだ?」
「……あと10分」
「じゃあ、向こうの駅で待っている」
「うん……」




 バイトが終るまで足の寒さなんてどこかへ行ってしまった。
 速攻で着替えてバイト代を受け取ると駅へダッシュした。

「寒くないか?」
「今は寒くないよ」
「あんなところでナマ足晒しやがって。ぶち切れるかと思ったぞ」
「えー?」
「赤いサンタ服に白い足。あんなものを他人に見せちゃイカン」
 わざと顔をしかめて言う彼にわたしは笑った。お互いの腕をからめて。

 さあ、わたしたちのイブの始まりです……。


2009.12.22 ブログに掲載  2010.12.13 再掲載       仲直りなイブ。
 

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